東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)19号 判決
一 本件の特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりである事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告の主張する取消事由の有無について検討する。
(一) 取消事由(一)について
原告は、まず、参照例記載の発明においては、本願発明の要旨1におけるような測定されるべき機械的な力の実質的大部分を受けもつ外方部分がない旨主張する。しかし、当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明にかかる測定体は二つの外方部分を有するところ、成立に争いのない甲第一号証(本願明細書)によれば、本願発明は、その図面のうちの第一図及び第二図(別紙第一図および第二図)のもののいずれをも含むものであり、原告のいう外方部分とは、その第一図における5、7及び第二図における11、13をいい、中央部分とは第一図における6、第二図における12をいうことが明らかである。ところで、これらの図面で外方部分と中央部分とは点線でその境が劃されているけれども、前記甲第一号証の全体をつうじてみれば、この点線は便宜上付されているにとどまり、現実にそのような点線が存在するものではないこと、つまり、外方部分と中央部分とは、中央口もしくは開口の周縁のほぼ外側を結びこれを延長して測定体の両端に至る直線を境とし、その外側部分を外方部分と称しているものである事実を認めることができる。成立に争いのない甲第六号証によれば、参照例記載のものにおいてもその第五図に示されるように磁性材料の薄板より成るものにおいては、四箇のスロツトの外側を結びこれを延長して測定体の両端に至る直線を境とするその外側の部分が存在していることが認められ、この部分が本願発明の構成にいう外方部分に当るものということができる。したがつて、参照例のものにおいて本願発明の要旨1にいう外方部分が存しないということはできない。
つぎに、原告は、参照例の発明においては本願発明の要旨1におけるような測定体の両端において機械的に堅い部分を構成し、それぞれのうえに平行対峙側部が配置された構成はみられない旨主張する。しかし、原告の主張によれば、ここにいう機械的に堅い部分とは硬度の堅さをいうものではなく、力を主として受けもつ部分をいうものであるところ、前記甲第六号証第五図によれば、磁性材料の薄板の両端中央部にそれぞれ一個の突出部11を有する事実及びこの突出部をつうじて力を主として受けもつ部分が薄板の突出部の存する側に突出部の下側に存する事実をうかがうことができる。してみれば、参照例の発明においても本願発明と同様に、機械的に堅い部分および平行対峙側部が存する事実を認めることができる。
よつて、原告のこの点に関する主張は理由がない。
(二) 取消事由(二)について
前記甲第一号証によれば、本願発明は、「同じ寸法を持つ既知の測定装置に比して良好な測定の直線性を維持しながら著しく大きい力を測定することを可能にする」ことを目的とするものであり、成立に争いない甲第七号証によれば、引用例のものは、「測定子のみでは構造的に困難である如き大なる力を測定する」ことを可能にすることを目的とするものであつて、両者は、その目的の一部において一致するところはある。また、引用例における弾性体と測定体との間の空隙及び本願発明の要旨2の開口が、いずれも作用力が予定値をこえた時に破壊されることを防ぐという作用効果を有することは、当事者間に争いがない。
しかしながら、本願発明と引用例のものとを比較してみると、両者は、この効果を実現すべき技術手段において相違がある。すなわち、前記甲第一号証によれば、本願発明においては「測定帯域及びこの測定帯域と機械的な力が働らく測定体の側部との間にある該測定体部分が、測定体の他の部分より機械的に著しく弱く、そのために上記の部分が測定体に作用する機械的力の方向に直角な該部分の断面積に比例してその機械的な力を受けずそれよりも少ない部分を吸収する様に設計する」(本願明細書四ページ末行から五ページ六行まで)こととし、「開口4のために中央部6は充実した外方部分5及び7より機械的に著しく弱いことは明らかであり、この結果、中央部分6は該部分の断面に比して力Pの全体の著しく小部分を吸収する」(本願明細書六ページ六行から九行まで)よう構成されている。これに対し、前記甲第七号証によれば、引用例のものにおいては「本発明によれば測定体を弾性体の肢を介して特別に高い荷重に耐えられる別の弾性体と並列に接続する。比の構成の場合には、比の方法で並列に接続される弾性体が受ける力だけ測定体に加わる力を減少させ……実際の測定体は底及び蓋である弾性体によつて中断される力を受ける」(甲第七号証一ページ左欄九行から一六行まで)よう構成されている。これによつてみれば、本願発明のものにおいては、良好な測定の直線性を維持しながら、測定装置を大型化させることなく著しく大きい力を測定するため、測定体自体に開口部を設けることによつて、測定帯域に受ける力を吸収しようとするものである。これに対して、引用例のものにおいては、大なる力を測定するためではあるが、そのため測定体にこれと別体である弾性体を接続することによつて、測定体に加わる力を減少させようとするものである。
その結果、本願発明のものは、測定体のみを用いるので引用例のものに比して良好な測定の直線性を維持しながら著しく大きな力を測定することを可能とする効果を奏することも、前記甲第一号証の記載に照らして明らかである。
してみれば、本願発明の要旨2と引用例のものとは、その技術思想において相違し、両者はその技術手段を異にするものであつて、当業者といえども引用例のものから本願発明の要旨2の技術手段を容易に想到することはできないものと認めるのが相当である。したがつて、これを引用例のものと均等の技術と認めた本件審決は、その認定に誤りがあり、違法であるといわざるを得ない。
三 よつて、本件審決が違法であるとしてその取消しを求める原告の本訴請求は正当であるから認容する。
〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和三五年九月二二日、西暦一九五九年(昭和三四年)九月二三日スエーデン国にした特許出願に基づく優先権を主張して、名称を「磁気、弾性―応力測定装置」とする発明(のちに、名称を「磁気伸縮型力測定装置」と改めた。)につき特許出願をした(昭和三五年特願第三八八二一号)。ところが、昭和三八年一月一九日拒絶査定があつたので、同年四月一八日これを不服として審判を請求したが(昭和三八年審判第一六八五号事件)、昭和四四年九月一三日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年一〇月一八日原告に送達された。
二 本願発明の要旨
1 少くとも一つの磁歪材料製測定体と少くとも二つのコイルとから成り、前記測定体が測定されるべき機械的な力を受け、この力が前記測定体の二つの平行かつ対峙する側部上に作用し、前記測定体が中央部分と二つの外方部分とから成り、これらの二つの外方部分が互いに平行で前記側部の一方から他方の側部まで延長し、前記中央部分と前記外方部分とが前記測定体の両端において機械的に堅い部分を構成し、前記平行対峙側部が前記機械的に堅い部分のそれぞれの上に配置され、前記中央部分が前記測定体を貫通する孔を有し、前記コイルが前記孔と係合し、これらの孔とこれらのコイルとを含む前記中央部分の一部が測定帯域となり、前記コイルの一つが電流源に接続されかつ励磁コイルとして作用し、他方のコイルが電気的測定装置に接続されかつ測定コイルとして作用し、前記コイルの巻線面が互いに垂直にそして前記平行かつ対峙する側部に対して四五度に配置され
2 前記中央部分が前記測定帯域と前記対峙平行側部との間の区域中で前記測定体を貫通する開口を有する磁気伸縮型力測定装置(別紙第一図および第二図参照。ただし、1および2は、説明の便宜のため付加したもの。)
三 本件審決理由の要点
本願発明の要旨は、前項のとおりであるが、本願発明は、その出願前周知の特許第二二二一〇九号明細書(特許出願公告昭和三一年四九五号公報、以下「参照例」という。)記載の発明の改良と認められ、前記要旨1記載の部分が参照例記載の発明に該当する。
そして、特許出願公告昭和三四年三二九六号公報(以下、「引用例」という。)には、「電気式応力測定子」の発明が記載されているところ、本願発明と引用例のものとを比較すると、まず、本願発明は、「一部片体を有し、この一部片体はその両端に剛性部分を有し、これらの部分上に測定されることになる力が作用し、」「一部片体の中央が測定帯域であつて孔とこの孔内で励磁しかつ測定する巻線とを有し、」ているのに対し、引用例のものはその要件を欠く点が相違するが、この相違点は、前記要旨1に記載されているところであり、したがつて、本願出願前周知の事項である。つぎに、本願発明の「一部片体が前記測定帯域と前記剛性部分との間に開口を有し」た点について検討すると、これは、前記要旨2に該当する部分であつて、引用例における弾性体と測定体との間の空隙がこれに相当し、両者は、作用力が予定値を越えた時に破壊されることを防ぐという同一の作用効果を奏するものと認められる。
したがつて、本願発明は、その出願前周知であつた前記要旨1と、引用例記載の発明と均等の技術と認められる要旨2とを単に寄せ集めることによつて容易に発明できたものと認められるから、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。
四 本件審決を取消すべき事由
本願発明の要旨、本願発明が参照例記載の発明の改良である旨の審決の認定は争わないが、本件審決は、左の理由によつて取消されるべきである。
(一) 本件審決が、本願発明の要旨1記載の部分をもつて参照例記載の発明に該当すると認定したのは、参照例記載の発明の内容を誤認し、その結果、参照例記載の発明と本願発明の要旨1とを同視して比較対照した違法がある。
本願発明の要旨1においては(1)測定されるべき機械的な力の実質的大部分を受けもつ外方部分があり(2)中央部分と外方部分とが測定体の両端において機械的に堅い部分すなわち剛性部分を構成し(ただし、ここにいう「堅い部分」とは、材質的に同一の材料であつても、硬度の堅さをいうものではなく、力を主として受けもつ部分をいうものである。)、それらのそれぞれの上に平行対峙側部(別紙第一図の8で示す突出部をいう。)が配置されているが、参照例記載の発明はこれらの構成を欠いている。したがつて、本願発明の要旨1と参照例記載の発明とは、その構成において相違するところがある。
(二) 本件審決は、引用例における弾性体と測定体との間の空隙と本願発明における測定帯域と堅い部分との間に存する開口との作用効果が同一である旨認定している。審決の指摘するように両者の作用効果として、作用力が予定値をこえた時に破壊されることを妨ぐという効果があることは認める。しかし、本願発明のものは、力を弱める作用をさせる装置を測定体自身に設けるものであるのに対し、引用例のものは、測定体のほかに設けられた装置によつて同様の目的を達しようとするものであつて、両者は技術思想を異にする。その結果、本願発明のものは引用例のものに比して力の伝達に中断を生ぜず、良好な直線的測定結果が得られ測定装置を小型化することができるという格段の作用効果を有するものである。本件審決は、この事実を誤認した違法がある。
詳言すれば、本願発明においては測定されるべき機械的な力は、直接に単一体である測定体に加えられるが、引用例においてはこの力は直接に測定体に加えられないで測定体の収容された函の壁または蓋に加えられる。したがつて、測定されるべき機械的な力の測定体への伝達についてみると、本願発明においては力の伝達の中断を考えることができないが、引用例においては力の伝達の中断があり、函と測定体との間の間隔によつて変化する。また、本願発明においては、測定されるべき機械的な力の大部分が中央部分と外方部分の両端において構成された堅い部分および外方部分に受けもたれ、一部が測定帯域に作用するが、引用例のものにおいては、測定されるべき機械的な力について力伝達が行なわれる場合、弾性体すなわち函が受ける力だけ測定体に加わる力を減少させる。その結果、本願発明のものと引用例のものとの測定性能を比較すると、同じ大きさの測定装置をもつてした場合には、本願発明のものは引用例のものにくらべてより良好な測定の直線性を維持しながら著しく大きい力を測定することができる。なんとなれば、引用例の装置は、測定体が測定函(または、柱と梁)内に挿入されるものであつて、測定体と板(蓋または梁)の対向面は、絶対的に平滑になることはできず、相当な凹凸を生じる。このような凹凸のある表面が互に向き合い押し合うならば、測定のはじめにおいて両表面の凹凸は互いにある程度食い込むこととなり、二表面間の接触点における力すなわち圧縮度特性は、非直線バネ定数特性としてあらわれ、力と圧縮度との関係は直線的ではない。これに反して、本願発明の測定体は単一体で構成されるから、このような不安定性を有しない。したがつて、引用例のものにおいて良好な測定の直線性を維持しながら著しく大きい力を測定するには、測定体に作用する力を減ずる函を有する測定装置を大型のものとしなければならないこととなる。
被告の答弁
一 本件の特許庁における手続の経緯、審決理由の要点および本願発明の要旨が原告主張のとおりである事実は認めるが、本件審決には原告主張のような違法はない。
二(一) 原告主張の取消事由(一)について
本願の明細書および図面の記載をみると、本願発明は、別紙第一図および第二図記載のもののいずれをも含むものであることは明らかである。そして、同明細書五ページ一六行より六ページ一〇行までの記載をみれば、本願発明の要旨とする点をそなえた第一図に示される装置は、参照例に示されたものに測定帯域の各側部に位置させた二個の開口を設けたものに相当することは明らかである。したがつて、本願発明の要旨1記載の部分が参照例記載の発明に該当するとした本件審決の認定に不当な点はない。
(二) 原告主張の取消事由(二)について
本願の明細書六ページ六行から一五行までの記載によれば、本願発明における測定帯域と堅い部分との間に存する開口は、測定帯域3と部分5及び7との間の機械的応力の比を変更させて、部分5及び7を機械的に充分に使用しうるようにすることができるという作用効果をもつものであることが明らかである。また、同明細書七ページ一二行から一九行までの記載によれば、本願発明の要旨とする点をそなえた第二図に示された実施例において、「測定帯域3にはその断面に対する上記力の比例分より少ない力の分け前だけ作用する」という作用効果をもつものである。これを引用例のものと比較すれば、いずれも測定帯域(測定体)に加えられる力を減少させて、小さな測定体で大きな力を測定できるという作用効果を有するものであつて、本願発明と引用例との間に作用効果に格別の差異は認められない。
さらに、加えられる力と測定値との間の関係を最も精度のよい所で使用することは、測定技術においては慣用の手段である。引用例においても、その一ページ左欄一一行から一二行までに「此の方法で並列に接続される弾性体が受ける力だけ測定体に加わる力を減少させ、」とあり、測定体に加わる力をその測定体に適したものに減少させて測定するものであることが明白である。また、引用例のものは、その一ページ左欄九行から一三行までに「本発明によれば測定体を弾性体の肢を介して特別に高い荷重に耐えられる別の弾性体と並列に接続する。此の構成の場合には、此の方法で並列に接続される弾性体が受ける力だけ測定体に加わる力を減少させ、力を受ける場所が変るものである。」と記載され、さらに、同二五行から二九行までに「蓋は荷重の加わつていない状態では測定体に接触せず、はじめて一定の荷重が加わつた時に接触する様に形成することができる場合には総ゆる構成の場合に有利である。これによつて0点を任意に選ぶ事ができ、応力の測定を或荷重からはじめて開始するのに必要である。」旨記載されている。したがつて、その装置の製作に当つて、もしも単一体で作られなければその測定目的に適さない誤差を生ずるものであるならば、これを単一体で作ることは製作技術上の常識であり、本願発明のような単一体の構造に製作するに何ら特別の技術を要するものでもない。結局、本願発明のように単一体とすることは当業者が必要に応じて容易になしうるところであつて、原告の主張は失当である。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙
<省略>